2025年6月13日未明、中東情勢は大きな転換点を迎えました。イスラエル空軍が「イランの核関連施設」に対する大規模攻撃を開始し、長年懸念されてきたイスラエルとイラン間の軍事衝突が現実のものとなったのです。イスラエル政府はこの軍事作戦に「ライジング・ライオン(Rising Lion)」という作戦名を与え、「国家存亡をかけた決断の時」と位置づけています。一方、イラン側もただちに防空態勢を敷き、「断固たる報復」を行うと表明しました。
本稿では、このイスラエルによるイラン核関連施設攻撃について、事実関係の時系列整理から各国メディアの報道比較、世界各地の市民の反応、専門家の見解、そして今後の中東・国際社会の行方と「第三次世界大戦」のリスク評価まで徹底検証します。
何が起きたのか?──時系列で追う攻撃の全貌
2025年6月13日(金)未明、イスラエルはイラン各地の核関連施設や軍事拠点に対し一斉に空爆を実施しました。攻撃の対象には、イランの主要ウラン濃縮施設であるナタンズ核施設(Natanz)や弾道ミサイルの製造施設、革命防衛隊(IRGC)の司令部などが含まれています。イスラエル側の発表によれば、今回の作戦の目的はイランによる核兵器開発を阻止するためであり、「必要な日数だけ攻撃を続け、核の脅威を排除する」と表明しました。イスラエル国防相のカッツ氏は、これは「イランに対する予防的先制攻撃」であるとして、直後のイランからの報復に警戒を呼びかけています。
実際、攻撃開始から間もなく、首都テヘラン北東部を含むイラン各地で複数の爆発が確認されました。イラン国営テレビは、「イスラエルの攻撃でテヘラン市内の住宅地にも被害が及び、子供を含む民間人が犠牲になった」と報じています。その住宅地は革命防衛隊幹部らが居住する地区とされ、IRGCのサラミ総司令官が攻撃により死亡したとも伝えられました。同時に、ナタンズのウラン濃縮施設からは黒煙が上がり、現地目撃者によれば「夜明け前に激しい爆発音が響いた」といいます。イラン全土は非常事態に入り、防空システムが「全面警戒態勢」に移行しました。

イスラエルのネタニヤフ首相はビデオメッセージで、「イランの核濃縮プログラムの核心を攻撃した。イランの核兵器開発プログラムの核心を攻撃した。ナタンズにあるイランの主要なウラン濃縮施設を標的とした。主要な核科学者を標的とした。イランの弾道ミサイルプログラムの核心を攻撃した」と述べました。
攻撃当日のイスラエル国内も緊迫しました。午前3時(現地時間)に全国的な非常事態宣言が出され、ベン・グリオン国際空港は全便欠航、領空も全面閉鎖となりました。学校は休校となり、市民生活は一時停止状態に陥りました。イスラエル国防軍(IDF)は「新たな局面に突入した」と国内に通達し、数万人の予備役兵を動員して報復攻撃への備えを固めています。実際、イスラエル防衛相カッツ氏は「ミサイルやドローンによる報復攻撃が極めて短時間で予想される」と声明を発表し、市民に警戒を促しました。
一方、イラン側の動きとしては、攻撃当日の午前中にイラン民間航空当局が領空の全面封鎖を宣言し、国際線の離着陸停止を発表しました。イラン政府高官は「イスラエルには必ずや苛烈な報復を与える」と表明し、具体的な対応策が最高指導部で協議されていると伝えられています。テヘラン市民の間には動揺が広がり、一部では「戦争が自国に及ぶのでは」との不安から家族で郊外へ避難する動きもあったようです。
こうした2025年6月13日の軍事衝突に至るまでには、長年にわたる両国間の緊張の累積が存在しました。イランの核開発計画を巡る対立の歴史は深く、過去にはイスラエルによるイラン核科学者の暗殺事件や、サイバー攻撃(有名なStuxnetウイルスによる核施設破壊工作)など、影の戦いが繰り広げられてきました。また2020年にはイラン核科学の中心人物モフセン・ファフリザデ氏が暗殺される事件も発生し、2021年にはナタンズ施設で原因不明の大爆発が起きるなど、「核開発妨害工作」の応酬が続いていたのです。その一方で2015年にはイラン核合意(JCPOA)が成立し一時緊張緩和が図られましたが、米国のトランプ前政権が2018年に一方的離脱を表明して以降、状況は再び悪化しました。制裁再開とイランの核活動再加速によって協調路線は崩れ、2020年代後半には外交交渉が完全に行き詰まった状態となっていました。
特にここ数週間の動きが今回の攻撃の直接的な引き金となりました。2025年6月12日、国際原子力機関(IAEA)理事会はイランが核不拡散義務に違反しているとの決議を採択し、イランに厳しい非難決議を突きつけています。この決議は米英仏独が提出し、ロシアと中国などが反対票を投じたもので、イラン側は猛反発していました。また同時期、アメリカとイランはオマーンを仲介役に核問題の間接協議を続けていましたが、核濃縮レベルや制裁解除を巡って交渉は難航し、ほぼ決裂状態にありました。イスラエル政府は以前から「イランが核兵器開発の瀬戸際にある」と主張し、トランプ米政権にもイランへの強硬姿勢を求めてきましたが、米国が外交的解決を模索する中でイスラエルの不満と危機感が高まっていたとされます。
こうした経緯を踏まえ、イスラエル側は「もはや待てない」との判断に傾斜していきました。ウォールストリートジャーナルの報道によれば、「イスラエルは6月15日にも攻撃に踏み切る用意がある」との観測が流れ、アメリカもイスラエル政府に対し「米軍は直接関与しない」と事前に伝達していたといいます。実際、米国側は攻撃前日の6月12日に中東地域の在外米軍・民間人に退避準備を指示し、周辺国の大使館から非緊急要員を退避させる措置を取っていました。そしてついに6月13日未明、イスラエルは長年「最後の手段」とされてきたイラン本土への武力行使に踏み切ったのです。
以上が、イスラエルによるイラン核施設攻撃の事実関係とそのタイムラインです。過去から積み重なった緊張の果てに生じたこの軍事作戦は、中東地域のみならず世界に大きな衝撃を与えました。次章では、この出来事に対する各国メディアの報道内容を比較し、国際社会がこの攻撃をどのように伝えているのかを見ていきます。
報道の比較分析──英・露・中メディアはどう伝えたか
イスラエルとイランの衝突という重大ニュースは、英語圏・ロシア語圏・中国語圏それぞれで異なる論調・視点で報じられました。ここでは主要な報道機関の伝え方を比較し、各メディアの論調の違いを分析します。
英語圏メディアの報道:事実と懸念の両面強調
英語圏の主要メディア(米国・英国など)は、まず事実関係を淡々と速報しつつ、徐々にその背景と影響を掘り下げる形で伝えました。例えばロイター通信は、冒頭で「イスラエルがイランの核施設やミサイル拠点を攻撃し、『核兵器開発阻止のための長期作戦に着手した』」とイスラエル政府の発表を伝えています。また「イスラエルは今回の攻撃によりイランが数日以内に核爆弾15発分の核物質を製造し得る状況を断ち切る狙い」とも報じ、イスラエル側の正当化する論拠を紹介しました。
同時に英語圏メディアは、イラン側の被害情報や国際的反応にも紙幅を割いています。「イラン国営TVは住宅地域への攻撃で子供を含む犠牲者が出たと報道」、「IRGC司令官ホセイン・サラミ氏が殺害された可能性」など、イラン側の発表する被害状況も速報。また「イランが報復に向け『防空網を全面可動』させ、最高指導者ハメネイ師が『イスラエルには厳しい罰が下るだろう』と声明」したこと、国際原子力機関(IAEA)が「攻撃対象にナタンズ核施設が含まれることを確認し、放射線レベル監視のためイラン当局と連絡を取っている」とのコメントを出したことなども詳しく伝えています。
多くの英語メディアは「地域紛争が世界市場に与える影響」にも触れました。例えば攻撃を受けて原油価格が急騰し、数ヶ月ぶりの高値水準に達したことや、各国の航空会社が中東上空の飛行ルート変更を余儀なくされている状況を報じています。さらに米国政府の動きとして、「トランプ大統領(当時)は国家安全保障会議を招集し、この衝突が『平和的解決を吹き飛ばしかねない』と懸念」していたことや、「米国務長官マルコ・ルビオ氏が『米国は攻撃に関与していない。自国要員防護が最優先だ』と強調した」との声明も紹介されました。こうした報道姿勢からは、英語圏メディアがイスラエルの主張とイラン側の被害情報をバランスよく伝えつつ、衝突拡大への国際的懸念を強調していることが読み取れます。
注目すべきは、英国メディアの報道です。イギリスの有力紙ガーディアンはライブブログ形式で刻一刻と情報を更新し、ハメネイ師の声明やイスラエル軍の動向、各国要人の反応を次々と伝えました。例えばガーディアンは「世界は新たな戦争の瀬戸際にある」として各国首脳が自制を呼びかけている状況を詳述し、ニュージーランド首相の「この地域にさらなる軍事行動は望ましくない」との発言や、日本政府高官の「緊張緩和と邦人保護のためあらゆる外交努力を行う」とのコメントなども紹介しました。さらに米議会内でも賛否が分かれていることに触れ、与野党の有力政治家による支持・批判の声を併記しています。具体的には親イスラエル派の議員(例:トム・コットン上院議員)が『我々はイスラエルを全力で支援する』と発言した一方、進歩派のクリス・マーフィー上院議員は『この攻撃は外交交渉を潰す意図が明白で、地域戦争の危険を高める』と非難したことを報じました。こうした報道から、英語圏メディアは「正確な事実伝達」と「懸念・評価の紹介」を両立させ、読者に多面的な情報を提供する姿勢がうかがえます。
ロシア語圏メディアの報道:中立的事実報道と米国不介入の強調
ロシア語圏の主要メディア(国営・民間問わず)は、今回のイスラエルの攻撃を比較的中立的かつ慎重なトーンで伝えました。ロシア国営通信のタス通信(TASS)は、「イスラエル国防相カッツ氏が『国家による予防的攻撃を実施した』と発表し、全国に非常事態を宣言した」と事実関係を速報しています。また「イスラエルは攻撃後数時間以内にもミサイル・ドローンによる報復を受ける恐れがあると警告した」とも伝え、イスラエル側の緊張感を読者に伝達しました。一方で、タス通信は攻撃の背景や評価に関する独自の論評は控え、各国から伝わる公式情報の紹介に徹する姿勢が目立ちます。
具体的には、TASSはイスラエル側の発表として「イスラエルはイランの核兵器計画の中枢を攻撃し、ナタンズ濃縮施設や核物理学者を標的に含めた」というネタニヤフ首相の演説内容を伝えています。ネタニヤフ氏の「イランの核開発計画の心臓部を叩いた」との発言は、ロシア語圏メディアにおいても大きく引用されました。さらに、イスラエル情報機関モサドが空爆と並行して「イラン国内で極秘破壊工作を実施し、ミサイル基地や防空網を無力化した」との米Axios記者の報告も紹介し、今回の攻撃が単なる空爆に留まらない複合的作戦である点を強調しています。
ロシア語圏メディアでもう一つ特徴的なのは、米国の関与否定と地域への影響について詳述していることです。例えばタス通信は「アメリカ政府関係者は『今回の攻撃に米軍は一切関与していない』と明言した」と伝え、ルビオ国務長官(当時)の声明を引用しています。加えて「米国務省は中東駐在の自国民に最大限の警戒を呼びかけた」ことや、「米政府は在イラク米大使館員家族らを一時退避させた」といった動きを報じ、米国が火の粉をかぶる事態を懸念している様子を伝えました。これはロシア国内向けには「米国はイスラエルを支持しつつも深入りを避けている」というニュアンスで受け止められた可能性があります。
さらに、ロシアの専門家筋のコメントとして、「イスラエルの攻撃はイランの核開発を短期的に遅らせる可能性はあるが、イランの核保有の意志を挫く保証はない」との慎重な分析も見られます(ロシア国営メディアの討論番組など)。一部の露専門家は「かえってイランが核兵器保有を決意する可能性」を指摘しており、この点はIAEAグロッシ事務局長の警告とも符合します。
総じてロシア語圏メディアの論調は、表向きは客観報道に徹しつつ、西側(特に米国)の思惑や戦略的背景にも注目しているのが特徴です。欧米メディアが論調として懸念や非難を前面に出すのに対し、ロシアメディアは事実ベースの情報提供に徹する一方で「米国は当事者ではない」という点を強調し、読者に大国間対立の図式へ拡大しないよう注意を促しているようにも見受けられます。これはロシア自身がウクライナ戦争で西側と対峙する状況下、中東で新たな米・イスラエル vs イランの構図が浮上することへの警戒感が滲んでいるとも言えます。
中国語圏メディアの報道:抑制的な伝え方と専門家分析
中国語圏のメディアは、全体的に冷静かつ抑制的なトーンで今回の攻撃を報じました。中国国営の新華社通信は速報で「イスラエル軍がイランの核計画関連の数十箇所の目標を空爆した」とイスラエルの発表を伝え、同時に「イスラエル首相が安全保障内閣の緊急会合を招集し、領空閉鎖措置を取った」ことを報じています。また「13日未明、イスラエル各地で防空警報が鳴り響き、『新たな局面に入った』と軍が表明。現時点でイスラエル国内で被害は発生していない」と事実関係を淡々と記述しました。新華社の伝え方は簡潔で、主に両国の公式発表をそのまま引用する形となっており、政治的な論評は付していません。
一方、中国のニュースサイトや専門家の論説では、より踏み込んだ分析も見られます。中国共産党系メディア「環球時報」や上海のニュースメディア「澎湃新聞(The Paper)」は、今回の攻撃の背景や今後の展開について専門家の見解を掲載しました。澎湃新聞の記事では、中東問題専門家の王晋氏が「イスラエルは『戦争の縁(ブリンクセマンシップ)』に踏み込み、今回の軍事行動に踏み切った」と指摘しています。記事によれば、2025年に入り中東は一見緊張緩和に向かっていたものの、ガザやイエメン情勢の不安定さ、そして米イラン核協議の行き詰まりとイランの高濃縮ウラン蓄積がイスラエルの強硬派を刺激し、国内世論の圧力もあって攻撃を決断したと分析しています。
特に中国メディアが注目したのは、IAEA理事会で採択された対イラン決議と今回の攻撃時期の符合です。前日にIAEAが「イランは核不拡散義務に違反している」と20年ぶりともいえる厳しい非難決議を採択したことが、イスラエルに「新たな戦略的圧力」を与えたと解説されています。王晋氏は「この決議でイランと西側の溝がさらに深まり、米イラン対話が一層不透明になったことで、イスラエルは軍事行動のタイミングが来たと判断した」との見方を示しました。また「イスラエルの国内政治的事情(右派勢力の圧力)が強硬策を後押しした」との指摘もあり、中国メディアはイスラエル国内の文脈にも触れています。
さらに中国語圏の論調では、衝突拡大への強い警戒が滲んでいます。専門家らは「イスラエルは軍事目標を戦略・軍事関連に限定し、民間インフラへの大規模攻撃は避けており、米国も巻き込まれまいと距離を置いている」と指摘しつつも、「一方的な圧力が平和に繋がるとは限らず、むしろイラン強硬派の反発を招き、中東全域を巻き込む全面衝突に発展しかねない」と警告しています。実際、中国メディアは「もしイランが今回の被害を重大と判断し大規模な反撃に出れば、地域戦争のリスクが飛躍的に高まる」との見通しを示し、2024年に起きた二度のイラン側の軍事報復(4月と10月)に言及しつつ、「今回の報復はさらに大規模・強硬になる可能性がある」と論じました。
中国政府としては公式に「深い憂慮」を表明し、関係各国に自制と対話を呼びかける声明を出しています。国連の場などでも中国代表は「中東の危険な連鎖反応を食い止めるべき時だ」と主張し、アントニオ・グテーレス国連事務総長も「今こそ報復の連鎖を止める時だ」として即時停戦と緊張緩和を訴えています。こうした動きも中国語メディアは紹介し、自国が調停者として振る舞う意思も示唆しました。
まとめると、中国語圏メディアの報道は事実関係を落ち着いた筆致で伝えつつ、専門家の分析を通じて攻撃の背景要因やリスク評価を読者に提供する内容となっています。西側メディアのような断罪的論調や、ロシアメディアのような露骨な政治色は抑え、「何が起き、なぜ起きたのか」を冷静に分析する論調が際立ちました。この姿勢は、中国が中東での立場を比較的中立に保ちつつ、大国として安定を願うスタンスを反映しているといえるでしょう。
世界の声──SNSと市民のリアルな反応
イスラエルのイラン攻撃に対して、世界各地の一般市民もSNSやブログ、掲示板などで様々な反応を示しています。その声は地域や立場によって大きく異なり、驚きや不安、怒りや支持など複雑な感情が交錯しています。この章では、各地域の市民の声を拾い上げ、その傾向や相違点を探ります。
中東地域:怒りと動揺、そして「抵抗」への共感
中東の一般市民にとって、イスラエルとイランの直接衝突は他人事ではありません。アラブ諸国のSNS上では、今回のイスラエルの行動に対する怒りと反発の声が数多く見られました。特にパレスチナ問題に心を寄せる人々や、親イラン的な立場の市民は、「シオニスト政権(イスラエル)の侵略行為を許すな」「イランよ立ち上がれ、パレスチナとレバノンのために」といった具合に強い言葉で非難しています(主要なハッシュタグとして「#イスラエルの侵略」「#中東の大戦」などがアラビア語で拡散)。レバノンやシリアでは「我々も次に標的にされるかもしれない」という不安も広がり、SNS上で自国の防空態勢やシェルター情報を共有する動きもありました。
一方、サウジアラビアやUAEなど湾岸アラブ諸国では、表向き政府は自制を促す声明を出しているものの、市民レベルでは複雑な感情が見られます。これらの国ではイランと敵対する政府の立場から、イスラエルの行動に一定の理解を示す声も一部にあります。「イランの拡張主義を挫くためにはやむを得ない」というコメントや、「自国に飛び火しないよう祈る」といった現実的な不安も語られました。しかし大多数の一般市民にとってはやはりイスラエルに対する不信感が根強く、「また中東を混乱に陥れるのか」「民間人を巻き込むな」といった怒りの声が支配的です。
イラン国内の人々の反応も二極化しています。イランでは国家による情報統制もあるため公には愛国的な声が強調されますが、SNS上の匿名の書き込みなどを見ると、市民の本音が垣間見えます。テヘランの一般市民は突然の爆撃音に恐怖し、「まさか自分の街が戦場になるとは…」「子供たちを連れて安全な場所に逃げるべきか」といった切実な声が上がりました。実際、あるテヘラン在住の女性(55歳)は「昨夜は本当に怖くて、家族で街を離れることまで考えた。今朝起きて爆撃で街が壊滅していないか半分覚悟した」と語っています。一方で、イラン人の間には「このまま黙っていては次は本当に首都が攻撃される」との危機感から強烈な報復を望む声もあります。イランのSNSでは「#痛みには痛みを(#EyeForEye)」といったハッシュタグが広がり、「イスラエルに鉄槌を」「報復は神聖な義務」といった書き込みが相次ぎました。
興味深いのは、イランの若い世代や反政府的な層の中には、イスラエルの攻撃に一定の理解や支持を示す声も一部で見られたことです。国外に住むイラン人亡命者の中には、イスラム体制に反対する立場から「IRGC(革命防衛隊)が打撃を受けてざまあみろ」といった過激な投稿をする者も現れました。こうした動きに対し、イラン当局(IRGC情報部)はすぐさま「イスラエル支援の書き込みを発見したら通報せよ」との警告を出す事態となっています。このように、イラン人の声も一枚岩ではなく、「愛国心からの怒り」と「戦禍への恐怖」、さらには「反体制感情からの複雑な心境」が交錯している状況です。
欧米諸国:戦争への不安と議論、SNSで飛び交う#WW3
欧米の一般市民にとって、中東での大規模衝突は自国の安全保障や世界経済への影響から大きな関心事です。今回の攻撃の報が伝わると、欧米のSNSではすぐさま「第三次世界大戦が始まるのか?」という不安が広まりました。Twitter(現X)上では「#WWIII」(第三次世界大戦)がトレンド入りし、ミームやジョーク交じりに恐怖心を表現する投稿が急増しました。過去にも2020年の米軍によるイラン司令官暗殺事件の際に「#WW3」がトレンド化したことがありましたが、今回も「これで第三次大戦まっしぐらか」「招集令状が来るのでは」といった半ば本気の懸念を示す声が若者を中心に見られました。
アメリカ国内では、政治的立場によっても市民の反応が分かれています。保守層・親イスラエル派の人々はSNSで「イランの脅威を排除するイスラエルを支持する」「核保有を許さないという明確なメッセージだ」と攻撃を肯定・支持する書き込みを行いました。一方、リベラル派・反戦世論の間では「トランプ政権がまた愚かな戦争に巻き込まれようとしている」との批判が噴出しています。あるユーザーは「イスラエルが戦争を望み、アメリカは『はい、ご主人様』と言っている。イラク戦争の轍を踏もうとしているのでは?」と皮肉たっぷりにつぶやき、多くの共感を集めました。また「#NoWarWithIran(イランとの戦争反対)」というハッシュタグも拡散し、特に若い世代や米軍従軍経験者から「中東でこれ以上若者を死なせるな」という声が上がっています。
ヨーロッパでは、ウクライナ戦争を経験していることもあってか、市民の間に戦争疲れと戦禍拡大への嫌悪感が強く見られます。ドイツやフランスのSNSでは「外交努力を尽くすべきだった」「なぜまた罪のない市民が死なねばならないのか」といった嘆きが多く、一般市民レベルでは攻撃自体への批判が優勢です。もっとも、イギリスやフランスなど一部の右派層は「イランの核武装は世界への脅威。今回の攻撃は残念だが必要悪だ」と主張する意見もあり、議論が分かれています。ただ概して欧州の市民感情としては、「中東でこれ以上争いを広げないでほしい」という平和志向が根強く、デモこそ起きていないものの署名運動やネット上の反戦キャンペーンが散発的に展開されています。
イスラエル国内の市民の声にも触れておきましょう。イスラエルでは攻撃開始後、国民の多くは政府の公式発表に耳を傾け、「国家の非常時」に団結するムードが形成されています。SNS上でも、イスラエル人ユーザーからは「我が国の存亡を守るための正当な攻撃だ」「イランの脅威をこれ以上座視できない」という支持の声が目立ちました。また攻撃と同時にミサイル警報が発令されたことから、市民は自宅や防空壕に待機しつつSNSで互いの無事を確認しあったり、政府の発信する情報を共有したりしています。あるテルアビブ在住のジャーナリストは「夜通しヘリや戦闘機の音が聞こえ、不安だったが、誰もパニックには陥っていない。私たちは長年この瞬間に備えてきた」とコメントしています。もっとも、イスラエル国内でも一部左派市民やアラブ系住民からは「この先どれだけの報復を招くのか」「イランとの直接戦争は避けるべきだった」という懸念も聞かれ、国論が完璧に一致しているわけではありません。ただ総じて、イスラエル市民の士気は高く、政府と軍への信頼感が強い状況といえます。
ロシア・中国:傍観と皮肉、そして思惑
ロシアの一般市民の声は、他地域に比べるとやや距離を置いたものになっています。ウクライナ紛争のただ中にいるロシア国民にとって、中東の戦火は直接の関心事ではないかもしれません。しかしSNS上では「米国がまた戦争を煽っている」「この混乱で得をするのは誰か?」といった皮肉めいた投稿や陰謀論的な見解も散見されました。例えばロシアのある有名な軍事ブロガーは「アメリカはウクライナに続きイランでも代理戦争を演出するつもりか」とTelegramに書き込み、数万件の視聴がありました。一般のコメント欄でも「中東が燃えれば石油価格が上がり、我々ロシアには有利かもしれない」という半ばブラックユーモアのような声や、「米軍が巻き込まれればウクライナへの関与が減るかも」といった計算高い意見も見られます。もちろん全てが冷笑的なものばかりではなく、ロシア人の中にも「これ以上世界大戦の火種を増やすな」「民間人が犠牲になるのは許せない」と純粋に平和を願う声も多くあります。ただロシア国内ではメディア統制の影響もあり、大勢としては「自国に直接関係ない戦争への関与は避けたい」という空気が強く、市民の関心も限定的となっている印象です。
中国の一般市民の反応は、SNS上で公然とは大きく語られていません。中国政府はこの問題に慎重に対処しているため、Weibo(中国版Twitter)などでも検閲が働いている可能性があります。その中でも見られた意見としては、「米国とイスラエルが地域を不安定化させている」というアメリカ批判が一定数あります。例えばWeibo上のあるユーザーは「米帝(アメリカ)はまたも中東に嵐を起こした。中国は平和を守る立場だ」と投稿し、多くの「いいね」を集めました。また中国国内の民族主義的な層からは「イランは我々のパートナー。断固支援すべきだ」との声もあります。ただ一方では、「国際原油価格が上がるのは困る」「経済に悪影響が出る戦争はやめてくれ」という現実的な懸念も広がっています。中国在住の一般人にとって、中東での大規模紛争は生活必需品価格やエネルギー供給に直結する問題でもあり、静観しつつも内心穏やかでないというのが本音でしょう。総じて中国の一般世論は政府見解をなぞる形で「対話と平和的解決」を求める建前を支持しつつも、心の内では「他国の戦乱に巻き込まれたくない」という国益優先の気持ちが透けて見える状況です。
このように、世界各地の市民の声は千差万別ですが、一つ言えるのは「大戦への不安」と「平和への希求」が共通して存在することです。支持・非難の温度差はあれど、多くの人々が「これ以上事態が悪化しませんように」と願っており、その声は各国政府にも届き始めています。次章では、軍事・地政学・国際政治の専門家たちが今回の出来事をどう分析しているかを見ていきます。専門家の視点から浮かび上がる戦略的意味やリスク評価は、市民の不安や疑問を解消する一助となるでしょう。
専門家の視点──軍事と外交の観点から見る意味
イスラエルによるイラン核施設攻撃は、中東の軍事バランスや国際政治にどのような意味を持つのか。軍事・地政学・外交の専門家たちは様々な角度から今回の事態を分析しています。その主なポイントをまとめると、「イスラエルの狙いと計算」「イランの報復シナリオ」「米国および他国への影響」「核拡散と抑止力」「地域紛争の連鎖リスク」の5つが浮かび上がってきます。それぞれについて専門家の見解を見てみましょう。
1. イスラエルの狙いと計算:「時間との戦い」に踏み切った背景
専門家の多くは、イスラエルが今回の攻撃に踏み切った背景に「核のタイムリミット」があったと指摘します。イスラエルは長年、イランが核兵器製造の「ブレイクアウト(実戦配備までの期間)」に達することを最大の安全保障課題としてきました。米国シンクタンクの専門家マシュー・クロニグ氏は「外交で永久的な解決は望めず(2015年の核合意も恒久解決にはならなかった)、核武装容認も論外。残された選択肢は軍事行動のみだった」と断じています。彼は10年以上前から「いずれこの攻撃は不可避」と論じていたといい、今回それが現実化したことを「驚きではない」と述べました。
イスラエル側の作戦目標については、元イスラエル首相府顧問のシャローム・リプナー氏が「今回の初撃で複数の核関連施設、IRGC司令部、核科学者らを同時に狙った。狙いは核計画の物理的破壊だけでなく、イラン側の反撃能力そのものを削ぐことにある」と分析しています。つまりイスラエルは、イランが報復に用いるミサイル戦力や防空網も先制的に無力化し、自国への被害を最小限に抑える戦略を採ったというのです。実際、イスラエルは空爆と並行してモサドによる秘密工作でイラン国内のミサイル基地やレーダーサイトを破壊したとの報道もあり、専門家は「極めて高度に計画された複合作戦」だったと評価します。
イスラエルの判断タイミングについて、リプナー氏は「米国が今週末予定していた米イラン核協議の成果に悲観的だったこと、そしてトランプ大統領が『攻撃は差し迫ったものではないと思う』と発言したことで、奇襲効果を狙うには今しかないとイスラエル指導部が結論づけた」と推測しています。また、イスラエル軍のエヤル・ザミール参謀総長は攻撃後に「今回の作戦で絶対的成功を約束はできない。イランは必ず反撃してくるだろう」と述べましたが、それでも「歴史的な戦いに身を投じている」と強調し、作戦の正当性に自信を示しました。専門家は、この発言からイスラエル指導部がある程度のリスク(自国被害)を織り込み済みで、長年の脅威除去に背水の陣で挑んでいる*子を読み取っています。
2. イランの報復シナリオ:地域全体を巻き込む可能性
次にイランの反応と今後の報復シナリオについて。元イスラエル政府高官のリプナー氏は「イランはイスラエルと米国の双方に重い代償を払わせようとするだろう」と予測しています。実際、イラン革命防衛隊や軍は攻撃直後から「イスラエルとその支援者(米国)に強烈な一撃を与える」と宣言しており、専門家もイランが米国標的も含めた広範な報復を検討しているとみています。
具体的なシナリオとしては、「直接のミサイル・ドローン攻撃」がまず挙げられます。既にイランは弾道ミサイル戦力を中東全域に届く規模で保有しており、イスラエルへの一斉反撃だけでなく、ペルシャ湾岸の米軍基地やイスラエルと国交を持つ湾岸諸国(UAEやバーレーン)のインフラも標的にすると警告しています。イランの強硬派は「もし米国が一手でも動けば、イラク国内の米軍基地も直ちに攻撃する」と表明しており、この言葉通り多正面での対米・対イスラエル攻撃も選択肢に入っているようです。
また、イランが中東各地の友軍(代理勢力)を動員する可能性も指摘されています。レバノンのヒズボラ、イラクやシリアの親イラン民兵組織、そしてイエメンのフーシ派など、いわゆる「抵抗の軸(Axis of Resistance)」と呼ばれる勢力は、すでに「イランと連帯してイスラエルと戦う」意思を表明しました。ヒズボラについては、2024年10月にイスラエルが同組織の指導者ナスラッラ師を暗殺した際、イランは直ちに弾道ミサイル約200発をイスラエルに撃ち込む報復を行った前例があります。今回も、もしナスラッラ師や他の「抵抗の軸」の要人が巻き添えになれば(あるいはイランへの攻撃が続けば)、ヒズボラやハマスが参戦し「イスラエル vs イラン・周辺国・非国家勢力」の全面戦争に発展するリスクがあります。
米国のシンクタンク・大西洋評議会(Atlantic Council)の中東専門家らは、「イランには良い報復オプションが少ない」としつつも、全く反撃しない可能性は極めて低いとみています。一人の専門家は「ハマスとヒズボラは昨年の戦闘で弱体化しているし、イスラエルのアイアンドーム(防空システム)はミサイル・ドローン攻撃をかなり無力化できる。イラン自身も全面戦争は恐れている。従って報復は限定的になる可能性がある」と予想しました。この見解では、「トランプ政権初期に行われたソレイマニ司令官の殺害(2020年)とそれに対するイランの抑制的反撃のように、今回も大事には至らず短期間で沈静化するだろう」ということです。実際、ソレイマニ殺害後、イランはイラク国内の米軍基地にミサイルを撃ち込んだものの米側に死者は出さず、その後は水面下で手打ちとなりました。今回もイランが「顔を立てる程度の報復」で留める可能性は否定できません。
しかし別の見方では、「今回の打撃でイラン指導部(ハメネイ師)が負傷・死亡する事態や、核施設への損害規模次第では、イランはより大規模な軍事行動に踏み切る」との指摘もあります。幸い現時点でハメネイ師は健在と報じられていますが、IRGCサラミ司令官をはじめ複数の高官や核科学者が犠牲になったとすれば、イラン国内の強硬派世論は黙っていないでしょう。専門家のシャローム・リプナー氏は「イランが受けた損害評価次第では、反撃の規模も変わる。場合によっては戦域が拡大し、地域紛争が深刻化する」と警鐘を鳴らします。つまりイランの報復シナリオは不透明で、限定的に留まる可能性と、想定以上に広がる可能性の両方が存在しているのです。
3. 米国と国際社会への影響:同盟関係と外交努力の行方
今回の衝突は、米国および他の主要国にとっても重大な外交・安全保障上の課題となりました。元米国外交官のリチャード・ルバロン氏は「イスラエルの攻撃はトランプ大統領の自制と対話路線への呼びかけを無視して行われたもので、米国が望んでいない戦争に引きずり込まれるのは避けられないだろう」と述べています。彼によれば、米国政府は当初外交解決(核交渉復帰)を模索していたものの、ネタニヤフ政権はそれを待たず独自行動に踏み切った。その結果、「たとえイランが米軍を直接攻撃しなくとも、イスラエルが報復合戦に巻き込まれ泥沼化すれば、米国は軍需物資の供給・情報提供・外交面の支援などで深く関与せざるを得ない」と指摘します。つまりルバロン氏は、米国は望まずとも「第二の中東戦争」に肩まで浸かってしまう危険を警告しているのです。
さらに、「湾岸アラブ諸国も今回の戦争の余波を強く懸念している」と専門家たちは言及します。トランプ政権はサウジアラビアやUAEと緊密な関係を築いており、これらの国々はイランとの直接衝突を何とか避けたい立場です。ルバロン氏は「仮にイスラエルが攻撃に湾岸諸国の領空を利用したとすれば、それは容易に確認できる。そうなればイランは湾岸諸国も敵と見なし、米国に彼らを守るよう要求が来る」と解説します。既にイランの親イラク武装組織は「もしイラクの空域がイスラエルに使われたら米軍基地を攻撃する」と宣言しており、湾岸各国は神経を尖らせています。米国は同盟湾岸諸国を守る義務から、なし崩し的に軍事関与を深めざるを得ないシナリオも現実味を帯びてきます。
一方、今回の出来事は米イスラエル関係にも微妙な影を落とすとの見解もあります。大西洋評議会のダニエル・ムートン氏は「今回イスラエルは単独でイランを攻撃した。過去の類似局面(例えば2024年4月や10月のイラン報復時)では、米イスラエル間で緊密な調整があり低被害で切り抜けたが、今度はトランプ政権のイラン協議に対するイスラエル側の不信感もあって、調整不足のまま一方的行動に出た」と指摘しています。トランプ大統領は最近イスラエルを訪問せず、4月のホワイトハウス会談でもネタニヤフ首相に満足な譲歩を与えなかった経緯があり、ムートン氏は「イスラエルが自力で安全保障を確保しようと考えた結果が今回の攻撃だ。これは今後の米イスラエル間の不協和音を高めるだろう」と分析します。
実際、米国内では「ネタニヤフは米国の頭越しに戦争を始めた」との批判が政権内外から出ており、トランプ大統領も「自分は攻撃にゴーサインは出していない」と距離を取る発言をしています。専門家の中には、「この事件は米国とイスラエルの戦略的不一致を表面化させ、同盟関係に微妙な緊張を生む」と見る向きもあります。ただ他方で、米議会や世論には根強い親イスラエル感情があり、先に述べたように多くの議員がイスラエル支持を表明しています。米国が最終的にどこまでイスラエルを支援し、どの一線で踏みとどまるかは、今後の国際政治の大きな焦点となっています。
4. 核抑止力と拡散リスク:むしろ核開発を促進する皮肉も
今回の事態は、核抑止力や核拡散に関する議論にも一石を投じました。IAEA(国際原子力機関)のラファエル・グロッシ事務局長は攻撃直前、「イスラエルの攻撃はイランを核兵器開発へ一層駆り立てる可能性がある」と警告していました。グロッシ氏はイラン当局者から「攻撃されれば核兵器保有を決断するほかなくなる」との示唆を聞かされていたようで、「攻撃はイランのNPT(核拡散防止条約)離脱すら招きかねない」とまで踏み込んだ指摘をしていました。皮肉なことに、核開発を止める目的の攻撃が、相手に核武装の決意を固めさせる「逆効果」になりうるというジレンマが露呈した形です。
また、軍事的見地からも「空爆だけでイランの核能力を根絶できるか」には疑問符がつきます。安全保障の専門家マシュー・クロニグ氏は「イスラエルの攻撃では地下施設までは完全に破壊できないだろう。米軍なら可能だったかもしれないが、イスラエルにできるのは地上設備の破壊までだ」と指摘しました。実際、イランのフォルドゥやナタンズの一部施設は地下深くにあり、通常爆弾では破壊困難とされています。クロニグ氏は「ただし誰もがヒズボラ(レバノンの地下要塞化した武装組織)を壊滅できないと思っていたが、イスラエルは昨年見事に制圧した(※架空の前提)。地下施設攻撃にも創意工夫があったかもしれない」とも述べ、イスラエルの特殊部隊や新兵器投入の可能性に言及しています。もし何らかの形でイスラエルが地下施設に打撃を与えていれば、イランの核計画は年単位で後退するでしょう。しかし仮にそうであっても、「イランが再建に意欲を燃やせばいずれ復活する」との見方が強く、専門家R・クラーク・クーパー氏は「今回の一撃がイランの核の野心を挫くかは不透明だ」と述べています。
核抑止の観点では、あるロシアの軍事評論家が興味深いコメントをしています。「今回、イスラエルは自身の核抑止力(イスラエルは核兵器保有を公言していないが、事実上保有国とされる)を背景にイランを攻撃した。しかしイランが核兵器を持っていれば、この攻撃はなかっただろう」というものです。つまり、核抑止力の非対称性が戦争の起こりやすさに影響したという指摘です。イランは今核を持たないから攻撃された、ならば「生き残るために核武装すべき」という論理がイラン強硬派で力を持つ恐れがあります。グロッシ事務局長の懸念もまさにそこにあり、彼は「攻撃はイランの決意を固めるだけだ」と強調していました。
ただし別の視点で、核不拡散体制に与える正負両面の影響も議論されています。一部の非核保有国からは「結局、ウクライナもイランも核がないから攻められる。核さえ持てば安全だ」という誤った教訓が広まる危険が指摘されています。一方で、核保有国からは「核開発をする国にはこのような現実的リスクが伴う」とのメッセージになり抑止になるとの意見もあります。しかしIAEAなど国際機関は武力による核拡散防止には否定的で、グロッシ氏のように外交的解決の重要性を改めて訴えています。
5. 地域連鎖リスク:多方面紛争と人道危機の可能性
最後に、今回の衝突が誘発し得る地域的連鎖リスクについてです。中東専門家の多くは、「事態が一歩間違えば中東全域を巻き込む戦火となり、人道・経済危機をもたらす」と警告します。元米国務省高官のダイアナ・レイエス氏は「シリアやレバノンなど、かろうじて安定を取り戻しつつあった地域が今回のエスカレーションで振り出しに戻る恐れがある」と述べました。彼女は特に「難民や貧困層など脆弱な人々に最も深刻な影響が及ぶ」と指摘し、戦火による物流寸断や燃料価格高騰が「食料・医療供給を直撃し、何百万人もの生活を脅かす」と懸念しています。レバノンやシリアでは元々多数の難民や貧困層がいますが、もしイスラエルとイランの戦争にこれらの国が巻き込まれれば、「途方もない人道危機が発生しかねない」というのです。
また、環境やインフラへの被害も無視できません。ペルシャ湾岸で戦闘が起これば、石油施設が攻撃されたりタンカーが撃沈されるリスクがあり、巨大な原油流出や海洋汚染が懸念されます。レイエス氏は「湾岸やイランの油田地帯での戦闘は、石油流通のみならず周辺住民の健康や漁業環境にも壊滅的な打撃となる」と指摘しました。またイランやイスラエルの原子力関連施設が損傷した場合、放射能汚染の恐れもあります。IAEAは今回ナタンズ施設への攻撃を受け「イラン当局と放射線レベルについて連絡を取っている」と述べましたが、幸い現時点では異常はないようです。しかし戦争が長引けば、原子炉や核物質貯蔵施設への誤爆といった最悪の事態も起こりえます。
経済面の連鎖反応も深刻です。原油価格の急騰は既に起きていますが、ホルムズ海峡が封鎖される事態になれば、世界の石油供給の20%が滞るとも言われます。また中東経由の航空路閉鎖で旅客・物流の遅延も発生しており、戦争が長期化すれば世界経済に大きな打撃となるでしょう。国際社会はウクライナ戦争とそこから派生したエネルギー・食料危機をまだ克服していません。その矢先に中東で大規模戦争が起これば、複合的なグローバル危機に陥る可能性があります。
こうした「連鎖リスク」を防ぐには、主要国の協調と火消し役が不可欠です。専門家たちは、米露中欧が一致して外交的圧力をかけ、双方に自制させる必要があると口を揃えます。特にロシアと中国はイラン寄りの立場から、西側とは違うチャネルでイランに働きかけられる存在です。実際、中国は「関係各国に冷静さと責任ある対応を求める」と表明し、ロシアも国連安保理で停戦協議を提案する動きを見せました(報道ベース)。国連のグテーレス事務総長は「このまま報復の応酬を続ければ取り返しのつかない大惨事となる」と各国に訴えています。専門家のダイアナ・レイエス氏も「米国は当事者を抑制し人道被害を減らす責務がある。敵味方問わず外交を優先させよ」と強調しました。
以上、軍事・外交の専門家から見た今回の攻撃の意味とリスクを整理しました。結論として、イスラエルは存亡を賭けた賭けに出たが、同時にリスクも巨大であり、国際社会全体でその影響をコントロールしなければならないということが浮き彫りになりました。では、今後の中東および世界はどのように動くのか、そして「第三次世界大戦」勃発の可能性はどれほど現実的なのか。最終章で冷静に評価してみましょう。
世界大戦は起きるのか?──冷静な可能性分析
イスラエルとイランの軍事衝突を受けて多くの人々が「第三次世界大戦に発展するのではないか?」と不安を抱きました。確かに、中東という火薬庫で核開発問題を巡る戦争が起これば、列強を巻き込んだ大戦争に飛び火しかねないシナリオも想像されます。しかし、専門家や各国政府の見解を総合すると、直ちに第三次世界大戦(世界規模の全面戦争)につながる可能性は高くないと冷静に分析できます。その理由と今後の展望を整理してみましょう。
地域戦争と世界大戦の境界:現時点では「地域限定」の公算
まず押さえるべきは、現時点での紛争当事者はイスラエルとイランに限定されていることです。周辺国や米露中といった大国は、直接的な軍事介入を慎重に避けています。米国はイスラエルの同盟国ですが、トランプ政権は「攻撃に米軍は関与していない」と明言し、イランにも「米国の人員や施設を標的にするな」と警告するに留めています。ロシアと中国も、イラン寄りの外交姿勢ではあるものの、武力介入する兆候は見せていません。そのため現段階では「中東地域戦争」の域を出ていないといえます。
第三次世界大戦とは、文字通り世界主要国が二大陣営に分かれて全面戦争を行う事態を指します。今回の場合、米国・イスラエル vs イラン・(ロシア・中国?)という対立構図が想定されますが、ロシアも中国も自ら軍を派遣して米イスラエルと戦う考えはありません。むしろ彼らは外交面で米国の影響力低下を図りつつ、裏ではイランを支援する程度に留めるでしょう(例えば武器供与や経済協力など)。実際、ロシアと中国はIAEA理事会の反イラン決議に反対票を投じイランに理解を示しましたが、それは外交上のポーズであり、本気で米国と戦火を交える気配はありません。
アメリカもまた、自国が直接攻撃されない限りはイランとの本格戦争は望まないと見られます。トランプ大統領はかねてから「中東で新たな戦争は避けたい」という意向を示しており、政権内部も「イランに地上軍を送るような介入は国民の支持を得られない」と慎重です。これは民主党・共和党を問わずアメリカの世論の大勢でもあります。したがって、米国が武力介入を抑制する限り、ロシアや中国も対抗介入の口実を持たないため、大国間直接衝突には発展しにくい構造です。
「第三次大戦」のリスク要因:偶発的拡大と誤算
とはいえ、「第三次大戦」が完全にあり得ないと断言できるわけではありません。歴史上、大戦は往々にして偶発的なエスカレーションや政治指導者の誤算から引き起こされてきました。今回のケースで懸念されるシナリオをいくつか挙げてみます。
- 偶発的な同盟国巻き込み: 例えば、イランの報復ミサイルがイスラエルの誤った諜報により米軍基地に着弾し多数の米兵が死亡した場合、米国世論は一気に開戦を支持する可能性があります。あるいはイスラエルが「イラン指導部の地下壕にロシア人軍事顧問がいる」と誤認し攻撃してしまい、ロシア人死者が出れば、ロシアが黙っていない恐れもあります。こうした偶発的事故が連鎖すると、主要国が参戦に追い込まれ得ます。
- イラン政権の存亡危機: 仮にイスラエル攻撃でハメネイ師や大統領らが殺害され、イラン政権が崩壊の淵に立たされたとします。この場合、イラン軍部や革命防衛隊が「最後の手段」として残存ミサイルを周辺への無差別攻撃に使う可能性があります。最悪、核兵器は無くとも原子炉を爆破したり、生物化学兵器を用いるリスクもゼロとは言えません。そうなれば国際社会は黙っておらず、全面的な軍事介入(いわゆるレジーム・チェンジ戦争)に発展するかもしれません。これは世界大戦というより多国籍軍 vs イランの戦争ですが、ロシアがイラン擁護に回れば大国対立を伴う紛争になります。
- 他の火種との連動: 現在ウクライナ戦争や台湾海峡の緊張など、他にも潜在的対立が存在します。もし中東の混乱に乗じてロシアがウクライナで攻勢を強めたり、中国が台湾に圧力をかけたりすれば、複数の戦線が同時進行するグローバル危機となりかねません。その結果、陣営対立が固定化して第三次大戦の様相を帯びる可能性は否定できません。米国の情報当局者も「現在、核戦争の危機感は冷戦後で最も高い」と警告しており、中東紛争が他地域の緊張と絡み合うシナリオには注意が必要です。
以上のような要因はありますが、繰り返しになりますが各国首脳は総じて第三次大戦級の事態を避ける意志を示しています。国連など国際機関も最大限の外交努力を行っており、「危険な報復の連鎖をここで止めるべきだ」という世界的なコンセンサスが形成されつつあります。現代の核保有国指導者たちは、少なくとも第二次大戦の指導者よりも核戦争の悲劇を理解していると期待されます(実際、ロシアの元首相で強硬派のメドベージェフ氏ですら「核戦争は誰も望まない」と発言しています)。そのため、「世界大戦の引き金を引くな」という抑止的メッセージが裏で各国間に共有されていると考えられます。
今後の中東と国際社会の展望:対話復活か、さらなる混迷か
中東情勢の今後について、いくつかのシナリオが考えられます。もっとも望ましいのは短期間で戦闘が終息し、外交交渉が再開されるシナリオです。例えばイスラエルが初期攻勢で目的を達したと判断して作戦終了を宣言し、イランも象徴的な報復で矛を収める、そして仲介国(オマーンやカタールなど)の斡旋で米イラン間の対話が再開する、という流れです。これは専門家の一部(マシュー・クロニグ氏など)が予測する「短期で収束」のパターンで、第三次大戦どころか局地戦で終わる可能性に希望を繋ぐものです。
しかし別のシナリオでは、戦闘が断続的に続き「低強度の全面対決」状態が長引くことも懸念されます。イスラエルが何日も攻撃を継続し、イランも断続的にミサイル攻撃を返し、イスラエルの周辺(レバノンやガザ、シリア)でも小競り合いが起きるという慢性的紛争状態です。この場合、直接には世界大戦ではないものの、中東が長期不安定化し、その影響がじわじわ世界に及ぶ厄介な状況です。専門家の中には「これは一種の歴史的キャンペーンだ」と捉え、数ヶ月に及ぶ紛争を覚悟すべきとの意見もあります。これが長引けば、前述のような偶発的拡大のリスクも高まります。
いずれにせよ、現時点では「第三次世界大戦の引き金が引かれた」とは言えないというのが大方の冷静な分析です。多くの専門家や政府高官は、「極めて重大な局面だがまだ制御不能ではない」と見ており、むしろここから如何に抑制的対応を取るかが試されていると強調しています。例えば米国務長官ルビオ氏は「イランは米国を標的にすべきでない」と繰り返し警告し、これは裏を返せば「米国も戦線拡大は望まない」というシグナルです。またイスラエルも、核施設攻撃という一線は超えたものの、それ以外の民間インフラには手を出さず、ある種の自制線を引いているようにも見えます。
結論として、第三次世界大戦勃発のリスクは現状では限定的だが、ゼロではないと言えます。誰も望まない戦争が誤算や偶発で起きうる以上、国際社会は最大限の注意を払い続けねばなりません。幸いにも今のところ大国同士は直接衝突を避ける動きをしており、このまま各国の理性が勝ることを期待したいところです。
我々は何を考え、どう向き合うべきか
イスラエルによるイラン核関連施設攻撃という歴史的事件について、事実関係から世界の反応、専門家分析、そして将来予測まで多角的に見てきました。最後に、私たち国際社会はこの事態から何を学び、どう向き合うべきかを考えてみます。
第一に痛感させられるのは、「外交の失敗」がもたらす過酷な現実です。イラン核問題を巡って2015年には画期的な核合意が結ばれたにも関わらず、それを維持できず対立がエスカレートした結果が今の衝突です。もし各当事者がもう少し互いの安全保障上の懸念に歩み寄り、合意履行や新たな妥協策に取り組んでいれば、武力行使は避けられたかもしれません。外交の窓が閉ざされると、待っているのは暴力による解決という最悪の手段であることを改めて思い知らされます。国際社会は今こそ、失われた対話のチャンネルを修復する努力を始めるべきでしょう。事態が沈静化した暁には、国連や関係国を通じて新たな交渉の場を設け、核不拡散と地域安全保障の枠組みを再構築することが急務です。
第二に感じるのは、市民一人ひとりの声と姿勢の重要性です。世界の各地でこのニュースに接した人々は、驚きや怒り、不安を表明しました。その多くは「平和であってほしい」「無辜の人々が傷つかないでほしい」という切実な願いに根ざしています。こうした市民の声は決して無力ではありません。むしろ政府の行動を方向付ける重要な要素です。例えば米国内で反戦世論が高まれば、政府は戦線拡大に慎重になるでしょうし、イラン国内でも市民が戦争を望まなければ指導部への圧力となります。私たちもまた、日本にいながらにして他人事ではなく、「戦争回避」「紛争の早期終結」を求める声を上げ続けることが大切です。それはデモや署名運動でなくとも、SNSでの発信や周囲との対話など、日常の中で平和を希求する意思を共有することから始まります。
第三に、この出来事は国際秩序と安全保障の在り方について深い問いを投げかけています。核兵器の拡散を巡る問題、予防戦争の是非、大国の介入と地域の自主性――いずれも簡単に答えは出ません。しかし専門家の分析にもあったように、力による解決は新たな問題を生む危険を孕みます。「力には力を」でなく「理には理を」。つまり国際法や外交の理によって紛争を解決するという原則に立ち戻るべきです。今回イスラエルは自国存亡を理由に国際法上グレーな先制攻撃に踏み切りましたが、その是非はともかく国連憲章の精神から言えば望ましい前例ではありません。今後、同様の事態が他地域で起きないよう、国際社会は予防外交と集団安全保障の仕組み強化に努める必要があります。
最後に、私たち人類が忘れてはならないのは、戦争の悲惨さと平和の尊さです。中東では幾度となく戦火が人々の生活を破壊してきました。イランとイスラエルという二つの国も、歴史的・宗教的・政治的に深い確執があるとはいえ、本来は互いの文化や人々を尊重し合えるはずの存在です。市民レベルでは共存への模索もありました。しかし国家レベルの対立がそれを許さず、ついに武力衝突となった現実は、何ともやりきれない思いです。「第三次世界大戦」という言葉が人々の口に上るほど緊張が高まった今だからこそ、我々は平和への強い意志を再確認すべきでしょう。
今回の事件は決して他人事ではなく、グローバル化した現代に生きる私たち全員に影響を及ぼします。日本も例外ではありません。エネルギー価格の動揺や在外邦人の安全、ひいては外交政策にも波及します。そして何より、人類普遍の願いである「平和に生きる権利」が脅かされているのです。だからこそ、私たちは冷静に事態を見据えつつ、声を上げ、行動していかねばなりません。戦争を止められるのは最終的には世論の力です。第三次世界大戦など起こさせない――その強い決意を胸に、国際社会の一員として何ができるかを考え、日々の言動に反映させていきましょう。平和への道は険しくとも、諦めずに歩み続けることが、未来の世代への責任であり希望なのです。